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ふとしたことで、すぐに心は毒される

寝たり食べたり性的快感を得たり

生理的な欲を刺激することで毒は僅かに中和される

意識せずとも、時間の流れの中で少しずつ消化されることもある

即効性の毒けし薬を見つけたけれど、

近頃は手に入りにくくなってしまった

 

そして、消してもすぐにまた侵される

消しきれない毒のカスは着実に溜まり心を蝕む

 

 

今日はまた一段と厄介だ

気持ち悪い、吐きたいよ

此所に漏らす他に、吐く場所はない

所構わず無様に吐く気概はない

 

全てに目を瞑り、希望を殺し、心を空っぽにする

これは人間が持ち得る最終手段の自己防衛である

毒はなくなるが、栄養もない

干からびたそれはゾンビのようだ

 

 

悩める人は皆、矛盾した二律背反の渦に身を任せたり飲まれたりしている

好きだけど嫌い

したいけれどしたくない

わかっているけれどわからない

そのような渦も又、水や風のもたらす渦のように、

人間では太刀打ちの仕様がない強大な自然の力である

 

私は生者とゾンビを繰り返した奇跡の人である

ゾンビでありながら、無から自我を再び生み出した宇宙そのものである

それでももう二度と、ゾンビになり果てはしないだろう

恐らくどう足掻こうとも、細胞が枯渇を許さない

奴等は私の世界の地下深くに核シェルターを生み出し、万事に備えている

 

森羅万象に意味はない

意識の外に、意味はない

個々が存在意義を見出すのは勝手だが、

それまで、それは、ただそこに在ったという真実は揺るがない

意思なき相互作用である偶然の産物を否定するということは、

即ち神の肯定又は創造である

心が死ねばまた、それは、ただそこに在る状態に戻る

これが自然の常だ

 

 

 

今私が感じている毒は、私の知る最も質の悪い猛毒である

薬は、99の毒を洗い、1の猛毒を私に与える

もう二度と味わいたくはなかったが、

気休めでない薬の味もまた知ってしまった

だからゾンビにはもう戻れない

 

 

唯一の救いであり元凶は、

私が一生を捧げて追い求めている、ある快楽に囚われた

マゾヒスト故である

 

 

一度も陽の目を見ていない野望がある

この毒を形あるものに昇華させたい

その一心である

そしてそれは、他者の評価とは別の次元で、

私自身がオーガズムに達する境地のものでなければならない

 

私の心があるうちに、

私が私の観測する、私の意味を成しているうちにどうか

――――今生の 花咲き乱れ 吹き荒れん

 

 

そして

この願いは、

薬一つで、一瞬で塵と化す

投与中、世界は花に埋もれ

私の世界は完成している

ただ一つ問題は、

薬は生き物である

私に毒を与え治すを繰り返す

厄介であり魅惑的であり、甘美な薬である

願わくは、心身の無事を、厭世への抗いを

貴方の探しものが見つかることを信じている

 

 

この二律背反こそが、唯一無二の私の真情であり、

その渦の真っ只中で私はゆるりと横になりたいのである